不動産を相続した、転勤で住まなくなった、あるいは住み替えを検討しているなどのタイミングで、所有している物件を「売却すべきか」「賃貸に出すべきか」で悩む方は少なくありません。

どちらにも一長一短があり、ライフスタイルや経済状況によって最適な判断は異なります。この記事では、売却と賃貸のメリット・デメリットを整理し、それぞれの収支シミュレーションや節税・相続の観点も踏まえながら、中立的な視点で検討材料を提供します。

まず押さえたい:売るか貸すかの前提条件

判断をするうえで、まずは物件の状態や立地、周辺の需要、築年数などの要素を整理しましょう。たとえば、都心部や大学周辺、再開発エリアなどでは賃貸需要が高く、安定した収入が見込める場合があります。

一方、老朽化が進んでいたり、郊外で空き家率が高いエリアの場合、売却の方が賢明な選択となるケースもあります。現状を客観的に見極めることが、将来の損得に直結します。

不動産売却のメリット・デメリット

不動産を売却することで、まとまった現金が手に入るという点は大きな魅力です。住宅ローンの残債がある場合でも、売却によって完済できるケースもあり、心理的な負担から解放されるメリットもあります。

また、築年数が古くなるほど資産価値は下がっていく傾向にあるため、早めに売却することでより高い価格で手放せる可能性があります。

その一方で、売却によって将来的な資産価値の上昇や収益機会を手放すリスクもあります。特に今後地価の上昇が見込まれる地域や、開発計画があるエリアなどでは慎重な判断が求められます。

不動産売却のメリット・デメリット

不動産賃貸のメリット・デメリット

賃貸に出す場合、安定的な家賃収入が見込めることが大きな魅力です。ローン返済中であっても、家賃で支払額をカバーできるようであれば、資産を保有しながら収益を得ることが可能です。

また、不動産を所有したままであれば、将来的に再び住む選択肢を残しておくこともできます。相続資産として保持したいという場合にも有効です。

しかし、入居者対応や設備の維持・修繕、空室リスク、家賃滞納など、運用に伴うコストと手間は避けられません。管理会社を利用することで一定の負担は軽減できますが、その分の手数料も発生します。

不動産売却・賃貸の収支シミュレーション

ここで、都内にある築15年のマンション(70㎡、駅徒歩8分)を例に、売却と賃貸それぞれの収支をシミュレーションしてみましょう。

不動産を売却する場合

  • 売却価格:3,500万円
  • 仲介手数料:約120万円(税別)
  • 譲渡所得税:約200万円(想定)
  • 手取り額:約3,180万円
不動産を売却する場合

不動産を賃貸に出す場合

  • 月額家賃:15万円
  • 年間収入:180万円
  • 管理委託費(5%):9万円
  • 固定資産税・修繕費:年額15万円
  • 手取り年収:約156万円

この場合、20年以上保有し続けると賃貸の方が総収益で売却を上回る可能性がありますが、空室期間や修繕費の上昇、老朽化リスクもあるため、安定した収益が継続するとは限りません。

節税・相続の観点からの判断

不動産は相続税対策として有効な資産とされており、現金よりも評価額が低くなることが一般的です。たとえば、相続税評価額は市場価格の7〜8割程度となることが多いため、相続資産として保有しておくことには一定の意味があります。

また、賃貸物件にすることで「貸家建付地」として評価が下がり、相続税額がさらに軽減される可能性もあります。将来的に相続を見据える場合には、賃貸活用は有力な選択肢となるでしょう。

ただし、相続人の間で共有とすることでトラブルが発生するリスクもあるため、早期に家族間での話し合いと計画を進めておくことが重要です。

不動産関連で判断に迷ったら

売却か賃貸かの判断には、物件の特性や市場動向、家計の状況、ライフプランなどさまざまな要素が関係してきます。個別の事情によって最適解は異なるため、一概に「どちらが得」とは言い切れません。

信頼できる不動産会社や税理士、ファイナンシャルプランナーと相談しながら、数字だけでなくライフスタイルに合った選択肢を検討することが大切です。

まとめ:長期的視野で最適な選択を

「売るべきか、貸すべきか」という問いに対して、明確な正解はありません。しかし、それぞれのメリット・デメリットと収支、リスクを丁寧に比較検討することで、自分にとって最適な選択を見つけることは可能です。

不動産は資産であると同時に、責任と管理を要する存在です。感情に流されず、冷静に数字と状況を見つめ直すことで、納得のいく意思決定につながるでしょう。